青山学院大学で哲学、論理学の教授であった櫻井成廣氏(一九〇二~一九九五)は、城郭研究のパイオニアの一人にして、茶道、古典芸能、神道の歴史にも通じた哲学教授(青山学院大学)、そして異色の豊臣秀吉研究者でした。著書や雑誌論文から抜粋した長短とりまぜ四十数編の短文を、「系譜」「城」「芸能」「瓢箪」「神道、国学」などのテーマ別に再編集。城郭研究者の「現場主義」と哲学教授の「思索」が、謎多き天下人秀吉の深層に迫っています。
(一部の資料は掲載準備中)
著書はすべて絶版なので、「復刻本的論文集」ですが、全テキストの三割は編者らが新しく作成した背景説明や補足記事で、秀吉研究の最新情報も盛り込まれています。
伝承、伝説までふくめた国民的な記憶のなかで、豊臣秀吉を再考してみようというシリーズを始めるにあたり、明治時代以降に書かれたさまざまな「秀吉本」を点検したのですが、思考の深度と視界の広さにおいて際立っていると感じたのが櫻井氏の秀吉論でした。歴史学者でも、作家でもなく、「城郭研究者でもある哲学教授」というユニークな視点から描かれる秀吉像を、櫻井氏のことを知らない方々にも読んでいただきたいと思い、この論考集を刊行しました。
櫻井氏の論考によれば、秀吉の母親こそ一族の族長であり、豊臣氏の始祖的な存在だというのです。秀吉の一族に母系的な要素があることは多くの人が薄々と感じていたことかもしれません。しかし、「豊臣女系図」というはっきりとした見取り図を示したのは櫻井氏の功績です。これは秀吉の謎を考えるうえで、ひとつの視点となっています。
櫻井氏は秀吉の母方祖父を禰宜(神社の神官)だと主張しています。本書は著書や雑誌論文のうち、「母系としての豊臣一族」「母方祖父が神社にかかわる人であったこと」、この二つの櫻井説にかかわる論考を中心として遺稿を整理し、再編集したものです。
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ブックデザイン(組版設計、装幀)はミルキィ・イソベ。知的で深みのある装幀に定評があります。本書で使っている用紙、フォントについての情報を、紙の書籍の巻末に収めています。当サイトでも、本書のブックデザインに関する情報を掲載しています。→『豊臣女系図』のブックデザインについて
カバー画像には、江戸時代初期を代表する絵師、岩佐又兵衛の「洛中風俗図屏風(舟木本)」(東京国立博物館所蔵)をあしらっています。岩佐又兵衛は織田家臣団の有力者であった荒木村重の実子で、秀吉と因縁浅からぬ人です。本書の巻末にごく簡単ですが、そのことを紹介しています。
→「岩佐又兵衛と秀吉」