第一章で主な話題としているのは、7300年まえ、つまり縄文時代の中ごろ、九州本島の最南端の沖合いで起きた巨大噴火です。
この一万年の火山噴火のなかで、最大規模の噴火であるという専門家もいます。
一万年で世界一という評価がどれくらい厳密なものかはよくわかりませんが、とにかく、すさまじく巨大な噴火が、縄文時代の日本列島の南の端で起きているのです。
鬼界カルデラは、行政区分のうえでは鹿児島県鹿児島郡三島村という離島エリアに位置します。
鹿児島県の南端から南に約三〇キロメートル。
三島村は、硫黄島、竹島、黒島の文字どおり三つの島からなる自治体ですが、人口は四百人足らずです。第二次世界大戦の末期、日米による激戦が展開された、東京都に属する硫黄島と区別するため、薩摩硫黄島とも呼ばれています。
鹿児島空港には複数のLCCが乗り入れており、価格競争が激しいのか、東京-鹿児島の片道一万円以下のチケットを一週間ほどまえの時点でも予約できました。
フェリーの料金は片道三千六百円ですから、交通費だけなら、東京から京都、大阪に新幹線で行くより安い勘定です。
ただし、週に四日、一日一便だけのフェリーです。
船内には、鬼界カルデラについての学術的な説明パネル。火山、地質学の専門的な本も、貸してもらって読むことができます。日本でいちばんアカデミックなフェリー「みしま号」。
フェリーが出発する鹿児島港の目の前に桜島があり、日本でいちばんエネルギッシュなこの火山を左手に見ながら、鹿児島湾を南に走ります。
2時間くらいで、富士山型の成層火山である開聞岳が見えてきます。
別名・薩摩富士。縄文時代に出現した活火山です。
山裾を海にひたす優美な山の光景を堪能できます。
鹿児島港から鬼界カルデラの硫黄島まで、4時間ほどの船旅ですが、その半分くらいは鹿児島港のなかを走っています。薩摩富士の名をもつ開聞岳を過ぎたあたりから、波の荒い外海となります。
フェリーはまず、竹島に寄港し、硫黄島に向かいます。
鬼界カルデラを形成した7300年まえの巨大噴火は海底火山の爆発であり、その痕跡であるカルデラは海底にあります。
硫黄島と竹島は、氷山の一角ならぬ、海底カルデラの外輪山の一角なのです。
硫黄島の港の水は、このように黄色に変色しています。海中で温泉が湧出しており、温泉の中の鉄分などが海水や熱による化学反応で、黄色くなるからだという説明をうけました。
高さ80メートルほどの崖が港の目の前にあり、横に長い壁のようになっています。これがカルデラの縁辺です。港のあるあたりは、カルデラ内部ということです。
硫黄島は「俊寛伝説」の島です。
平清盛ひきいる平氏政権の打倒を企てる密議が露見し、僧侶の俊寛をはじめとする関係者が流された「鬼界ヶ島」はこの島だという話になっています。
俊寛伝説はほかの島にもあるのですが、硫黄島は、この黄色の海水によって、「黄海ヶ島」と呼ばれ、のちに「鬼界ヶ島」に転じたという説得力のある伝承により、最も有力な候補地となっています。
港の近くにある俊寛像の後方にみえるやや黄色めいた山が硫黄岳。
俊寛の伝説は、「平家物語」、能楽、歌舞伎など、さまざまなジャンルで題材とされていますが、歌舞伎俳優の中村勘三郎が勘九郎を名乗っていたころ、この島に来て、「俊寛」を野外公演したという今となっては伝説めいた話もあります。
皆さん、お若い。そして、合掌。